メゾソプラノ : 安念千重子 テノール : 牧川 修一 ピアノ : 丸山美由紀 演出・解説 : 中村 敬一 今回の演奏会は、演奏に先立って演出家の中村氏によるスライドを使った作曲者と曲目の解説がありました。富山ではあまり演奏されたことのないこの曲を楽しむにはとてもよい企画だったと思います。ちなみに、プログラムの曲目解説と歌詞の訳詞は、今回の伴奏者の丸山さんが担当されており、読み応え十分でした。 まず、中村氏の解説でも指摘がありましたが、今回の演奏で使われているこの演奏版のピアノパートは、管弦楽版からのアレンジではなく、作曲者自身が書いたオリジナル版であると言うことです。作曲は管弦楽版と並行して進められ、曲のタイトルや小節数などに若干の異同があります。(第3楽章と第4楽章のタイトルが違っています。小節数についてはどの程度違いがあるかはチェックできませんでした。)管弦楽版の後に、それを編曲したものではないのですね。と言うことはマーラーが書いた最後のピアノ曲と言うことも出来ます。そうした観点で聴くと、ピアノの名手だったと言われるマーラーの創意あふれる曲作りも楽しめるとも言えるでしょう。実際に響きが、後年のシェーンベルクやベルクのピアノを連想される部分が見つけられたのも収穫でした。 以前からこの曲は、”交響曲「大地の歌」”と呼称されてきましたが、それは日本だけのことらしいのです。上記のこうした曲作りの過程が、マーラーの歌曲の作り方のそれと同じなので、欧米ではこの曲は「交響曲」には含まないことが多いと言うことです。確かに海外盤のCDのジャケットには「大地の歌」しか書かれていません。国際マーラー協会のスコアには「テノールとアルト(またはバリトン)とオーケストラのための交響曲」という副題が書いてありますが、オリジナルの手稿譜にそのタイトルがあるのかどうかは分かりませんでした。中村氏の解説では、「第九のジンクスを気にしすぎていた」という話も出てきていましたが、作曲当時のマーラーは超売れっ子な指揮者だったわけですから、最近の研究では、これらは彼の妻アルマやブルーノ・ワルターの創作、あるいは思い違いでは?と言うことになっているそうです。そうした見解にも少し触れてほしかったなあと、マーラーを愛する私としては思ったりもしました。(そのあたりの事情については、前島良雄著「マーラーを識る」に詳しいです。) さて、演奏ですが、約1時間マーラーの世界を堪能させてもらいました。管弦楽版で聴くよりも声の比重が大きく、その分新しい響きなども発見することが出来、やはり20世紀の曲なのだなあと興味深く聴くことが出来ました。安念さんも牧川氏もベテランの貫禄十分で、マーラーにかける情熱というか執念のようなものが表現に表れていたように思いました。私たちのオーケストラともおなじみの丸山さんのピアノ伴奏も、長大なピアノ曲を聴かせていただいたような気分にさせられた秀演でした。終曲の幕切れ、メゾソプラノの「ewig… ewig… (永遠に 永遠に)」の感動的だったことと言ったら。消えていく音楽とともに彼岸に運ばれるような気がした心に残る幕切れでした。
by htskawa
| 2017-07-04 23:37
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