今年のオーケストラフェスティバル2017のメイン曲であったマーラーの交響曲第1番ですが、私がこの曲に取り組んだのは、これで3度目ということになりますが、この曲の演奏版について一度整理しておきたいと思います。 現在、交響曲第1番として通常演奏されるのは、国際マーラー協会1967年出版の改訂版(または1992年のもの)によっています。その底本となったものや現在流布しているものを出版順に整理すると以下のようになります。 A 1899年 初版 ワインベルガー社 B (出版年不明)上記の第2刷 C 1906年 決定版 ウニヴェルザール社 D 1943年 ブージー&ホークス社 E 1967年 ウニヴェルザール社(国際マーラー協会版) F 1992年 ウニヴェルザール社(国際マーラー協会第2版) 国内では、Eが音楽之友社、全音(現在は廃版)、Dがドーヴァー版で入手出来ます。ちなみに私たちの3回の演奏会では、すべてFを使っています。(日本ショット社からのレンタルです。) 楽譜の中身は、A、B、D(便宜上旧版と呼びます。)がほぼ同じ、C、E、F(後になるほど校訂結果が反映。こちらを新版と呼びます。)がほぼ同じという感じです。大まかに二つの系統があることになるわけです。出版年と内容に順序のずれが生じたのは、ブージー&ホークス社が新しい版を出す際に、その時点で一番新しいCではなく、A、Bをもとに作成されからということです。よって戦後のほとんどの指揮者は、Eが出版されるまでは、決定版より内容が古いけれども、出版年としては最も新しいDを使って演奏していました。ただし、Eの出版後もDで演奏している指揮者もいました。ややこしいのは、Eを使ってはいるが、部分的に旧版のオーケストレーションを取り入れた演奏も存在していることです。採用理由はわかりませんが、指揮者のこだわりが感じられて面白いものだと思います。 上記のようにいろいろな版が存在しますが、これはブルックナーにおける版の相違とはまた意味が違い、細部のオーケストレーションのみが違う版と言っていいでしょう。ですから、小節数などに異同があるわけではなく、楽器の用法、強弱、クレッシェンドやディミヌエンドの用法などのオーケストレーションが後のものほどブラッシュアップされていくのです。実際に音になったものを聴いてみると、すぐにわかる部分もあれば、スコアを見ながらでないとわからない部分もありで一概には言えないのですが、マーラーが演奏の度に、この曲を改訂していった姿が見えてくるようで興味深いです。けれども、新版に聞き慣れた耳には、旧版の響きもかえって新鮮に聞こえたりもします。そうした思いが部分的に旧版を採用している指揮者にもあったのでしょうね。 新版と旧版のスコアを詳細に見比べるともっとあるのかもしれませんが、聴いてすぐにわかる部分を以下にあげておきます。ちなみに私が持っている旧版の演奏は、オーマンディ/フィラデルフィアo(第2楽章で花の章も演奏されています。)、クレツキ/ウィーンpo(終楽章の最後のあたりで不可解なカットがあるトンデモ演奏。)ワルター/コロンビアsoは2楽章のティンパニ等一部採用。(この録音が60年代初頭なので、Cを使用していたのではないかと考えられます。旧版の部分はDから採ったのか?) ★は目立つ修正点だと私が思うところ(★★はかなり目立つ部分) 第1楽章 ・265小節からホルンがバックで木管に重なる。 ・305小節からホルンのロングトーンがずっと入る。 ・364小節からホルンがバックでハモリを入れている。 ・400小節からホルンのバックでリズムを入れる。★ ・416小節から2小節間、ホルンに装飾音符の入った音が入る。★ ・443小節からトランペットがミュート付でホルンと同じリズムを刻む。★★ 第2楽章 ・91小節目にトランペットの延ばしが入る。 ・187小節からホルンとファゴットが新版と入れ替わっている。★ ・292小節からホルンが木管と同じリズムを刻む。 ・326小節からティンパニが低音と同じリズムを刻む。★★ ・344小節からホルンとファゴットにロングトーンあり。 第3楽章 ・3小節間からのコントラバスのソロに小節ごとのカンマがない。★ 第4楽章 ・練習番号6からの主題にトランペットが入っていない。★ ・92小節目からのホルンが2小節間ロングトーン(新版では1小節)★★ ・その後、94小節目から3小節間トロンボーンのロングトーンあり★★ ・132小節から4小節間トロンボーンのロングトーン。 ・練習番号25からホルンに主題なし★ ・その後294小節から入るホルンにゲシュトップがない。★★ ・練習番号43から強弱の表現にかなりの異同あり。★★ ・496小節目にシンバルなし。★★ ・練習番号56から増強トランペットとトロンボーンなし。★ まとめてみると、ホルンがらみの修正が多いですね。マーラーがホルンの用法にこだわりを持っていた証左と言えますね。私的にはとても興味深い…。
by htskawa
| 2017-10-23 22:11
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